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鳥取地方裁判所 昭和57年(わ)25号 判決

主文

被告人を懲役六年に処する。

未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、暴力団山口組系竹中組内北村組若頭であるが、その経営する企業ミニ新聞社の従業員田中義人(昭和二三年一月一日生)に同組組員藤原一郎所有の普通乗用自動車一台を貸与していたところ、田中義人が右自動車を返還しないまま姿をくらますなどしたため、藤原一郎及び同組組員田原稔穂と共にその行方を探していたが、昭和五七年二月八日午前二時三〇分頃、鳥取市末広温泉町一五九番地やまいち食堂において田中義人が飲食しているのを認めるや、藤原一郎及び田原稔穂と共謀のうえ、まず藤原及び田原において田中義人を同店付近路上に連れ出し藤原一郎において「おんどれ、人の車を乗り逃げしくさつてどないけじめつけるんじや。」などと怒鳴りながら田中義人の顔面を手拳で殴打したり腰部を蹴りつけるなどしたところ、同人が「わしも極道をしとるんじや。」などと言い返したため、藤原からこれを聞いた被告人は激昂し、直ちに同所に赴くや、田中義人に対し「やくざだつたら悪いことをしてもええのか。」と言いながら、藤原らと共にこもごも田中義人の顔面、腰部、大腿部を殴打、足蹴りするなどの暴行を加えたうえ、藤原らに指示して田中義人を自己らの自動車に乗せて、同日午前三時過ぎ頃、同市丸山町三三六番地丸山墓苑内に連れ込み、こもごも「お前はどこのやくざか知らんけど人の車を持ち逃げしておつて。」「しやあねをたたき直してやる。」などと言いながら同人の頭部、胸部、腹部、腰部等を殴打、足蹴りするなどの暴行を加え、さらに同人を右自動車に乗せて同市湖山町西三丁目二二一番地「ホテルエアポート」室内に連れ込み、被告人において田中義人の腹部、胸部、腰部を足蹴りする暴行を加え、よつて同人に頭部擦過打撲傷、全身打撲、肋骨骨折等の傷害を負わせ、同月一五日午後八時四九分頃、同市尚徳町一一七番地鳥取赤十字病院において、同人をして右頭部擦過打撲傷に基づくくも膜下出血により死亡するに至らしめたものである。

(証拠の標目)(省略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人らの本件行為と被害者田中義人の死の結果との間には因果関係がないと主張する。しかしながら前掲各証拠によれば、右田中義人の死因は後頭上部正中の擦過打撲傷に基づくくも膜下出血であることが認められるところ、右擦過打撲傷の成因については、成程これが被告人らのうちの誰のどの具体的行為によつて生じたものかについて詳細にこれを認定することはできないとしても、少なくとも被告人らの判示暴行のいずれかの時点あるいは田中義人がこれから逃れようとした際(丸山墓苑において同人が被告人らの暴行から免れようとして墓苑内の池に落ち込んだ際に生じた可能性はある。)に生じたことは明らかであり、判示認定のような暴行の程度、内容や該暴行の為された場所、時間等に照らせば、右擦過打撲傷は、仮に被告人らの暴行によつて直接生じたものでないとしても、これと相当因果関係の範囲内にあることは優に認めることができる。

よつて弁護人の右主張は採用できない。

(累犯前科)

被告人は、昭和五一年一〇月二六日鳥取地方裁判所で傷害罪により懲役四月に処せられ(昭和五二年七月一五日確定)、昭和五二年一二月一四日右刑の執行を受け終わつたものであつて、右事実は被告人の当公判廷における供述、検察事務官作成の前科調書及び判決書の謄本(検乙第一五号)によつてこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、包括して刑法六〇条、二〇五条一項に該当するが、前記の前科があるので同法五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で再犯の加重をした刑期の範囲内で処断すべきところ、本件は、原因の一端が被害者田中義人の言動にもあつたことは認められるものの、被告人ら三名において何らの抵抗も示さない被害者に対し一方的に暴行を加えたものであり、しかもやまいち食堂付近における犯行現場を近隣の者に見とがめられるや、被害者を無理矢理自動車に乗せて丸山墓苑内に連れ込んで判示の如き強度の暴行を繰り返し加えたほか、被告人においてはホテルエアポート内でも既に虫の息となつている被害者に対してさらに暴行を加えているもので、その犯行態様は執拗かつ悪質危険であり、生じた結果も極めて重大である。ことに被告人は、共犯者である藤原一郎及び田原稔穂に対しては支配的な立場にありながら同人らの行動を制止するどころか、自ら率先して判示暴行に及んだほか終始本件犯行を主導したものであつてその刑責は極めて重かつ大と言わざるを得ない。尤も本件犯行後は被告人において被害者の手当をし、病院に運ぶなどしていること、現在では被告人も自己の行為を反省していること等の事情を特に参酌勘案し、被告人を懲役六年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

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